茂木 鈴(もぎ すず)公式



異世界のカード蒐集家


短編集 ひとりでできるもん



 御代金之介は、緋の迷宮都市で未帰還となった探索者を救出する際、レベル十六のカーディをソロで撃破した。

 通常、出会ったら逃げろとまで言われるほど、レベル十六のカーディは強敵である。

 ソロで戦って撃破するなど、まさに快挙である。


 あの救出戦では、誰が死んでもおかしくなかった。

 そんな戦いを一人の死者も出さずに成功させた金之介はというと……。


「あー、退屈、退屈! 何かもう、退屈すぎて死にそうなんだけど」

 ユージンの家で駄々をこねていた。

 腕を骨折して療養中であり、わずか三日目にしてもう、暇を持て余していた。

「断罪の処刑人と戦っても死ななかったのに、退屈だと死ぬのね。ずいぶんと珍しい生き物だわ」

 先ほどからジト目で金之介を見ているアイリーンは、両手を腰にやり、そう嘆息する。

「だってさぁ、医者が迷宮に潜っちゃ駄目って言うんだぜ。俺にどうしろと」

「さあ……静かにしていればいいんじゃない?」

「そんなぁ。……やりたいことだって一杯あるのに」

 アイリーンの素っ気ない言葉に、金之介は情けない顔をする。

 はた目でも分かるほどに落ち込む金之介を見かね、アイリーンは話し相手になることにした。

「もう、しょうがないわね。……で、金之介さんがやりたいことって何かしら?」


「迷宮に潜って、まだ一度も見たことがないカーディと戦うことだな!」


 あまりに欲望に忠実すぎる発言に、アイリーンの目が点になった。

「だったらなおさら早く、怪我を治さないとね。金之介さんだって中途半端な状態で、高レベルのカーディと戦いたくないでしょう?」

「それはそうだけど……まだ見ぬカーディが俺をだな……待っていたり?」

「待つもなにも、カーディは逃げないわよ。……そういえば、金之介さんって、『達人蒐集家』を持っているのよね。そこまでいったらもう、まだ見ぬカーディと言っても、高レベルくらいしか残ってないでしょう。そんなのに骨折した状態で突っ込むの? わたしはやーよ!」

 金之介が行くならば、アイリーンも付いていかざるをえない。


 ふと、金之介は疑問に思った。

「そうだ! ひとつ聞きたいことがあるんだが」

「なあに? 高レベルカーディのことならエンテ家に任せなさい。……で、何を聞きたいの?」

「そう、そのエンテ家だけどさ、最高のカーディハンターをずっと輩出してきたんだろ?」

「そうよ。昔から見込みのある人、既に名の知れた人、いろんなハンターを食客として我が家に滞在させつつ、バックアップしてきたのよ」

「それなのに何でまだ最高レベルのカーディを倒してないんだ?」

「なっ………………」

 単純な疑問だったのだが、金之介の一言はアイリーンを絶句させた。

 もちろん、金之介は気づかない。

「以前さぁ、カードのトレード会場で話した紳士がいたろ。ミラージュカードのドロップ具合から推測すると、やっぱりカーディの最高レベルは二十五じゃないかって言ってたじゃん」

「………………」

「今まで倒した最高はレベル二十二で、近年ようやくレベル二十三に更新されたんだろ? それって遅くないか?」

 数百年もかけてようやく倒せたカーディのレベルがひとつあがった。

 カーディを狩る技術は年とともに洗練されていくであろうし、生活が豊かになれば余裕も出てきて、訓練の効率化もはかれる。

 にもかかわらず、いまだレベル二十三のカーディまでしか倒せていないのは、おかしいのではないかと金之介は言った。

「ばっ………………」

「ばっ?」

「………………ばっかじゃないの!?」


「えっ?」

「いい? カーディのレベルが上がれば上がるほど、人里離れた場所に棲息しているの。カードの神様がそう配置したのよ。普通の人が間違って襲われないように」

「ああ……それで?」

「高レベルのカーディを倒すには、カーディの出没するフィールドを何日もかけて歩かないといけないの。軍隊を派遣しても意味がないのは分かるでしょ?」

「確かに、弱い連中がいくらいても意味はないな」

 金之介は断罪の処刑人と戦ったときのことを思い出した。

 あそこに百人の兵士が突撃したとして、全員が討ち死にだろう。それだけ高レベルのカーディは攻撃力も防御力も優れている。

「つまり、高レベルのカーディは……それはもう強くて強くてしょうがない人たちが集まって、そこで初めて狩ることができるのよ。でもね、生まれる時代が二十年もずれたら意味はないの。もしくは同じ時代に生きていても、出会えなかったらしょうがないわけ。だからエンテ家は優秀なカーディハンターたちを保護しているんだわ。彼らの実力に見合った仲間が得られるよう、その実力を出しきれるような仲間を探せるように手を尽くしているの! それがエンテ家なのよ。それでもね、いい?」

「あ、ああ……」


「ひとつのパーティ分、つまり六人分よ。同じ強さをもつハンターを揃えることが、どれだけ難しいことかっ!」

 いかにオールスターメンバーを揃えるのが大変か、アイリーンは金之介にこれでもかと語った。

 まくし立てるアイリーンの言葉に、金之介はたった一言だけ返した。



「でもさ、仲間を集めるのが難しいなら、ひとりでやっちゃえばよくない?」

「…………………………っ!!」


 のちに稀代の蒐集家と呼ばれ、カーディカードをひとりで全種類コンプリートすることになる金之介だが、その萌芽はまだみられない。





金之介無双です。


金之介の常識とのズレを書きたかったのですが、周囲もだんだん毒されていますし、どうなんでしょうね。


そのうち、「ひとりでできるでしょ」になるかと思います。