茂木 鈴(もぎ すず)公式



星をひとつもらっちゃったので、なんとかやってみる

ビーチバレー



「よお、みんなでビーチバレーしようぜ」

 ここは湘南の海。

 照りつける太陽が肌を焼き、打ち寄せる波の音が心地よく耳をくすぐる中、阿賀野冴の声が届く。

 そのとき矢羽根稔は、雲一つない青空の下で、砂浜で寝そべってうつらうつらしていた。


 ――ムギュ


 突如、稔の顔にビーチボールが押し当てられた。

「どうした稔? ずっと黙ったままで」

 寝そべったままの稔に、冴が不思議そうに問いかけるが、稔はもちろん答えられない。

 両手をゆっくりと動かし、目の前を掻く仕草をする。

 その動きが徐々に速くなり、しだいに力なくまたゆっくりへと戻る。

「ねえ、冴姉。それ、たぶん窒息してるわ」

 津村志乃の言葉に、冴がようやく手をどける。

「――ップハァー……げほげほ」

 復活した稔は大きく息を吸い込み、直後咳込んだ。

「それで稔、やるだろ?」

 息も絶え絶えの稔に冴は笑顔で問いかけた。



「死ぬかと思った」とか「ねえ、リーダー、人の話、聞いてる?」という声を無視して、冴は残りのメンバーを集める。

 冴が稔の腕を掴んで歩いていくと、それまで砂浜にいた人たちが、一斉にいなくなる。

「ん? 波が引くみたいに人がいなくなったな。海だけに。カカカカ」

 その間、稔は腕を捕まれたまま。冴から逃げ出せるはずがない。

 なにしろ、稔の足は、宙に浮いたままなのだから。

 腕を持っただけで人ひとり、宙に浮かせられるのだろうか。

 周囲から去った人たちはみな、そんなことを思っていた。

「五人か……中途半端だな」

「だったら私は審判をやるわ」

「んじゃ、男女で別れるか」

 冴がコートを作っていく。

「さっき急に目の前が真っ暗になって、死にかけたんだけど?」

「まだその話をしてるのか、諦めろ。それより気をつけた方がいいぞ。もう始まっているぞ。ほらっ」

 久遠寺龍彦が注意し、相手コートを指さす。

 稔が視線をやると、高天原ミヤが上げたトスを冴が追いかけるところだった。

「任せろ!」

 冴の声が響く。

 二人チームなのだから、任せろもないのだが、ボールに追いついた冴は大きくジャンプし、まるで水面に跳ねた魚のように身体を反らせた。

「ちょっ、リーダー。待って!」

 慌てて制止する稔の真横を凄い勢いで何かが通り過ぎた。

 擬音で表すと、ゴーでもゴウでもなく、『ボッ!』。

 直後、ズシャァ――という轟音とともに砂がかかる。

「リーダー……?」

 恐る恐る振り向いた稔の背後に、なぜかクレーターができていた。

「惜しい!」

「ちょっと待って! いま惜しいって言った? ねえ、リーダー。惜しいって言ったよね。何を狙ったの?」

「………………なにも? じゃ、次いくぜ」

 コートの端に避難している龍彦が手を合わせた。ナムナムと聞こえてくる。

「いやいやいや……リーダーおかしいよ。ここは海だよ? 海岸だよ? 砂浜でなに怖いことやってるの?」

「もちろん、ビーチバレーだが」

「いま俺を狙ったよね? リーダー、明らかに狙ったよね!」

「バカだなぁ、稔。当然じゃないか。おまえが海に来て、寝てばっかりいるのが悪いんだぞ」

 いい笑顔で冴が笑っている。

 ようは八つ当たり。

 だれも構ってくれなかったため、冴はヒマを持て余していたらしい。

「ということで、続きをやるぞ」

「冴姉とミヤのチームが一ポイントね」

「志乃、なんで冷静に点数を数えているの? 俺、死にそうだよ? ……って、始まった?」

 ミヤがサーブをする。山なりに飛んできたボールを稔が思わず受ける。

「よしきた」

 龍彦が相手コートに打ち込むも、冴がそれを難なくレシーブする。

「ミヤ!」

「ん」

 トスされたボールはゆっくりと弧を描き……。

「もらった!」

「ぐあああああ……」

 冴のアタックが稔の顔面を直撃し、高く舞い上がる。

「稔が身を捨てて作った好機!」

 龍彦が打ち込む。

「なんの! ……お返しだ」

「ぎゃぁあああああ」

 稔に二度目の直撃である。

「稔、やるなっ!」

 ひっくり返った稔の構わずラリーは続く。

「がぁああああ」

 うつ伏せになろうと、四つん這いで逃げ出そうと、冴のサーブは容赦なく稔を襲う。

「とどめだ!」

 ビーチボールがまるで砲弾のようにトルネードを描いて飛び、半ば砂にめり込んだ稔の後頭部に着弾する。

「………………」

「ふむ、こんなものだな」

「おまえの身体を張ったレシーブは忘れない」

 龍彦はお焼香の仕草をした。