茂木 鈴(もぎ すず)公式



お人好しが、異世界で一旗揚げますん




ライラの戦闘訓練


「それではお嬢様、いってらっしゃいませ」

「行ってくるわ、ライラ。帰りはいつもの時間よ」

「かしこまりました。のちほど、お迎えにあがります」

 リーザ・トエルザードの護衛であるライラは、軽く一礼しつつ、主人が学院の門をくぐるのを見送った。

 現在リーザは、エルヴァル王国の王都クリパニアにいる。

 リーザは毎日学院の授業がある。

 護衛であるライラは、そんなリーザの送り迎えをしている。

 そしてリーザが勉学に励んでいる間、ライラは何をしているのかというと……。

「本日もよろしくお願いします」

「うむ。では弟子たちに混ざりなさい」

「はい」

 学院の近くにある剣の私塾に通っていた。



「やぁあああ!」

 キンッと、金属を打ち鳴らす音がライラの耳を打つ。

 この私塾は木刀を使わない。実戦さながら、本物の剣を使って稽古をするのだ。

 さすがに刃は潰してあるが、振り回すのは鉄の塊である。

 防具のない場所に当たれば、骨折は免れない。

 毎日の稽古とはいえ、みな真剣に取り組んでいる。だれも気を抜く者はいない。

「――よしこれまで」

 休憩の時間になった。

 稽古をしていた者たちが一斉にホッとした顔をみせる。

 みな、手足にできたアザや打ち身をさすっている。

 ちなみにこの私塾。「訓練で実剣を使用してこそ高みに上れる」と、昔は刃を潰していない武器を使用していたらしい。

 生傷が絶えないどころか、五体満足で修業を終えられる者が少ないため、弟子の数が激減。やむなく刃を潰した剣を使用するに至ったのである。

 それでも周囲からは、『アブナイ集団』と見られている。

「腕が上がったな」

 ライラが休憩していると、塾長がやってきた。

「ありがとうございます。最近、心境の変化がありまして、基礎から鍛え直しているところです」

「ほう……心境の変化とな。何かあったのかな」

「個人的なことですので……」

 言葉を濁すライラに、塾長は「護衛であるし、色々あるわな」と妙に分かった風な口をきく。

 普段なら塾長の邪推と思われるところだが、実は当たっていた。

 最近王国の上層部――いわゆる国王やその側近たちが不穏な動きを見せている。

「戦争が近いかもしれない」

 そんな情報をリーザがどこからともなく入手してきた。

 これから先、いつ何がおこるか分からない。身の危険は常にあると主人であるリーザが言い出したばかりなのだ。

 ライラはすぐに身体を鍛えなおし、不意の襲撃や暗殺に対応できるよう、神経を研ぎ澄ます必要にかられた。

「そういえば塾長、ひとつお聞きしたいことがあります」

「ふむ、なんじゃな?」

「魔法使いとの戦いについてです。日頃より剣や槍の腕を磨いておりますが、魔法使いと戦う場合もあるかと思います。どうすればよいのかと思いまして」

 ライラが困ったのは、対魔法使い戦の鍛錬方法である。

 私塾の中には魔法使いはいないし、ライラの周囲にもいない。

 かといって、敵の中にもいないとは限らない。出会った場合、どうすればいいのか、頭を悩ましていたのだった。

「なるほど。たしかに我が塾では、魔法使いとの戦いは想定しておらん。一般的に剣と魔法では魔法が勝つ。だから魔法使いと戦う場合、魔法を打たせないよう動くのが最善だ」

「はい」

 実戦で魔法を使用できるレベルの魔法使いは、必ず剣や槍を持った者と戦うことを想定して訓練している。

 ある程度実践的な魔法が使えるようになると、二、三年は肉体をいじめ抜いて、対応力をつけさせるのだ。

 一方、純粋な戦士などは、魔法使いを想定した訓練を積んでいない。

「魔法を放つ前に攻撃しろ」と言われるのが関の山なのだ。

「そうはいっても、呪文を唱えている間に攻撃しなさい……では、納得しないのであろう」

「はい。もっと意味のある戦い方を学びたいと思います」

「それは困ったな……では私が知っている魔法使いや魔道士の話をしてやろう」

「……?」

「まあ聞きなさい。とある魔法使いはな、〈火魔法〉によって、広範囲に火の粉をまき散らすことができる。火の粉は、だいたい二十メートル四方へ飛散する感じだな。どうだこれを防げるか?」

 ライラは首を横に振った。二十メートル四方に飛び散る火の粉など、どうやっても避けられない。

「うむ、わしでも無理であろうな。火の粉を被っても、火傷くらいで死ぬことはない。だが、戦闘力は著しく落ちる。つまり、喰らったら負けだ。とある風の魔法使いは、G3の魔物の足を風の刃でスパッと斬ることができる。そう何度も放つことは無理らしいが、風の刃は見えない。飛ぶ速度を鑑みれば、魔法を撃ってから避けるのは難しいといえる。避けられるかな?」

「難しいと思います」

「見えないものを避けろと言われても、偶然に頼らないかぎり、毎度毎度避けることは叶わないだろう」

「はい」

「魔法を跳ね返すほどの分厚い金属鎧を身に纏っていれば……」

「動けずに、よい的になると思います」

「……そう。つまり、撃たせたら負けなのだよ」

「では、対処法はないというのですか?」

「帝国最強の土魔道士は、城の壁を壊すことができるそうだ。破壊できるのは一部らしいが、それでもすごいことだ。城の壁が無力化できるなど、どれくらいの兵をもってすら、難しい。戦士が何人集まろうが、城の壁は壊せんからな」

「はい、私もそう思います」

「つまりだ、わしは魔法使いとなるべく敵対しない方がいいと考える。実戦に投入される魔法使いは、一流の戦士と同じ意味を持つからの。だからもし、敵対せねばならぬときは、先手を取るしかない。卑怯と言われてもよい。剣を突きつけよ。さもなければ逃げよ。わしが言えるのはこれだけだ」

「……分かりました。ご教授ありがとうございます」

 先手に勝る勝機なしということらしい。



「お帰りなさいませ、お嬢様」

「ただいま。今日も疲れたわ……ねえ、ライラ。何か面白い話はないかしら」

「いえ、とくには……」

「何でもいいのよ。屋敷に着くまでの暇つぶしなのだから」

「そうですか。でしたら……」

 ライラはしばらく考えて、「そういえば、塾長から魔法使いと戦う時の心構えを教えていただきました」と話しはじめた。

 それを聞いたリーザが、後に正司に対して軽い悪戯を仕掛けるのだが、それはまた別のお話。